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何色にも、染まらない ~It doesn't dye even to the color. ~

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何色にも、染まらない ボツ原稿おきば。なーむー。

■ S U M M E R ■

4章

駅で出会った黒髪で長髪の少女。
その少女の祖母は最後に別荘を土地と少女に託した。

少女は毎年夏になるとこの別荘を訪れるそうだ。
もちろん、祖母との楽しかった想い出を無くさないように。
しかし、その想い出の場所を崩してしまうような話が舞い込んできた。
この一帯のリゾート化。
ゴルフ場を中心としたリゾート施設の建設。

反対する人間も当然いるが、それよりも賛成する声が強かった。
人が訪れないこの一帯にとってはチャンスだった。
リゾート施設建設によって経済が潤う。

声の大きい賛成側の勢いは加速し、話はとんとん拍子に進んでいく。
そして翌月から、ついに工事が着工されることになった。


「で、今週が最後なんだ…」
「はい、そうなんです…」
「そっかぁ…あれだけ綺麗な小川がゴルフ場かぁ…」
「あっ、でも…できるだけ自然を残したまま…ゴルフ場にするそうです」
少女がいつもより悲しげな声で返事をしてきた。
…多分、今までどおりの状態じゃなくなってしまうのは理解しているようだ。
ゴルフ場になるということは…小川そのものはそのままだけど…
おそらく、それ以外の不要なものは消されてしまうだろう。

「でも、本当にいいの…?」
私はその言葉を言ってしまい、しまった…!と後悔する。
この少女からどんな回答が返ってくるか、考えなくても分かる。

「いいんです…そうじゃないと…困る人たちがいるし…」
少女はあえて笑顔でそう回答する。
もちろん予想通りの回答。
この少女に偽者の笑顔をさせてしまったことを激しく後悔する。

「それに…そろそろお引越ししないといけないんです」
「引越し?」
「はい…あ、その別荘ではなくて…自分の家のほうを…」
「そうなんだ、あれ、何処に引っ越すの?」
「えっと、コンクリートジャングル…です」
「え?」
「その…都会のほうに引っ越すことになったんです…」
「それでコンクリートジャングル?」
「だから…ちょっと楽しみなんです…どんな所なんだろうって…」
「そっか、行ってみたいって…言ってたもんね」
「ちなみに…えっと…引越し先の地名は……って所なんです」
「えっ…それならうちの近くになるんだね」
「ふぇっ…そうなんですか?」
「多分、電車で30分くらいじゃないかなぁ…?」
「わぁ…嬉しいです」
少女は少し安心した表情をこちらに向けてくる。

「でも、そうなると…ここに来るのも大変に……」
今度は途中で言葉が止まる。
『しまった…』と感じても、もう遅い。
再び少女は必死に笑顔を作りだし、私に気をつかってくる。
あぁ、もう…私ってホントばか…。

「…えっと、だから…最後のお別れなんです」
「お別れって…」
「ゴルフ場の人たちの邪魔できないし…みんな楽しみにしてるし…」
「……」
「それに、一緒に生活してくれる人がいて…すごく楽しかったし…」
「……」
「たくさん想い出が出来たから…わたしは大丈夫です」
そういって、少女は笑顔を向けてくる。
思わず…反射的にその少女を抱きしめてしまった。
「ごめんね…そんな大切な時間を私のために」
「ううん、そんなことないです…二人で…過ごせて…よかったです」
「なら…最後の思い出を…ちゃんと作らないと…」
「最後の…想い出…?」
「うん、嬉しいだけが…想い出じゃないんだよ」
「えっ…?」
「悲しかったことを…なかったことにしたら…想い出にならないんだよ?」
「……でも」
「いいんだよ…好きなだけ泣いても…」
「……」
「私も…背負って…あげるから…」

そして、少女は私の胸の中で崩れるように泣き続けた。
私のせいで大切な想い出を作る時間を少女から奪ってしまった。
そのせめてもの償いとして…胸を貸してあげることでは少し足りないかもしれない
でも、私に出来ることは…それが精一杯だった。


……

カンカンカン…
無人駅の隣にある踏切が降りてくる。

「そろそろ列車がくるみたいだね」
「両方とも時間通りに来たみたいですね」

上り列車も下り列車もこちらに向かってきているのが見える。
定刻どおりに列車は運行していた。

「じゃあ、またね」
「はい…また引っ越す時には連絡します」
「だーめ、それより前に…また連絡してね?」
「えっ…でも…」
「用事がなくたって…電話してくれていいんだからね…?」
「はぅ…でも、電話代がかかっちゃいそうです」
「あはは…そうだね…でも、たまには声を聞かせてね?」
「はいっ」

がたん、がたん

それぞれ2両編成の電車がホームに滑り込んでくる。
「それじゃっ」
私は左手を敬礼のポーズからずびしっと前に出してお別れのポーズをする。
少女はいつもどおりの優しい表情でやさしく『バイバイ』と手を振っている。

その笑顔を確認して少女に背中を向け逆ホームに停車中の上り列車へとダッシュする。
そして、列車内の窓側の空席を見つけ出し、腰を下ろす。
ふうっ…と一呼吸おいて、窓の外を見る。

その窓からあの少女の姿が確認できた。
少女もこちらに気が付き…思わず目が合う。
何も出来ないまま時間が経過する。

ピーーーーーッ!ピッ!
車掌さんの強い笛の音と共にドアが閉まり…
少女の姿が遠くに流れていく。

こうして、私のちょっとした小旅行は終了した。

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